「静寂 ある殺人者の記録」
著者:トーマス・ラープ 訳:酒寄進一
図書館のドイツ文学コーナーにあった本。ノンフィクションかのようなタイトルだが、フィクションだ。
感想としては、なかなか良かった。うまくいきすぎてる感があったが、ラストはすごい!
鋭敏な聴覚を持つ子供
耳に突き刺さるような音に苦しむ赤ちゃん、カール。小さな町の全ての音や話し声が聞こえるほど鋭敏な聴覚を持ったカールが、その特異さゆえに歪みながら育っていく。
両親が知り合った様子や、全てが記録されていて、カールがどういう環境で産まれ育ってきたのかがよく理解できる。あまりに泣く息子、両親なりに愛を持って育てようとする。母親はカールを愛そうとするが、カールは母親を拒絶する。父親はある時カールが静寂の元で落ち着くことに気付き、彼を地下室で育てることに。
静寂を愛するカールは夜な夜な沼へ向かう。その行動が彼を殺人者へと導いていく。
知らなくてよいことも自然に耳に入ってしまう
聴覚が鋭いがため、人間の表裏や人々の言葉、動きを全て知ってしまうカール。未熟な子供には理解できない。母親の死によって「静寂」を唯一の救いとして生き始めてしまう。
子供は知らなくていいことってあるよね。しっかり寝て食べて、人とのコミュニケーションを取りながら少しずつ成長していくべきところ。カールは全ての情報を知りながら、疑問を感じながら成長していく。
歪まないはずがない!快楽殺人の内容かと思ったが、また違う。
最後には何人殺したかわからない位になるが、カールを疑い最後まで追いかける警察官シューベルト。
彼はカールを捕まえることができるのか…?
なぜカールが殺人を犯すのか、宗教とは何か。人にとって救いとは何なのか。
ただ悪ではなく純粋な部分を持つカールが、小さな育った町から去ることになる。彷徨いながら、殺人を繰り返しながら何を思うのか。
愛というものを唯一感じた女性マリー。彼の中からマリーが消えることは無く、殺人を犯しながら彼女のところへ向かう。
とにかくラストが素晴らしい!
カールの心理に入り込めず、さらっと読んだ感じになってしまったのだが、ラストはうまくいきすぎているものの素晴らしい。なぜタイトルが「記録」となっているのか。
この本の1ページ目の「アンナに捧ぐ」とは誰のことなのか。これはぜひ最後まで読んで確認してほしい!
危うくニワトリは1ページ目の文章を見落とすところだったよ。
思ったよりは重さを感じない本だったから、梅雨の日に読むには良い一冊だったかな。
